『仏文和訳法』を読む(例文279)
山田原実先生 著『仏文和訳法』,大学書林,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1704262
を読んでいます。
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第七章 相関語句 Sinon~, du moins…「~ないとしても少なくとも…」 |
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[例文279] Si l’historien formule rarement les idées dont il use, c’est qu’elles sont pour la plupart très simples et, sinon très claires, du moins très familières tant aux lecteurs qu’à l’auteur. Lorsqu’un historien, pour expliquer la conduite du Napoléon, esquisse un portrait du grand aventurier, et met en relief, en même temps que son ambition, son esprit à la fois prévoyant et impulsif, il n’a pas besoin d’interrompre à chaque instant la description pour nous rappeler, en maximes générales, les effets naturels de l’impulsivité, de la prévoyance, de l’ambition.
[語句] formuler 表明する esquisser 下図を書く、スケッチする un aventurier 冒険家 mettre en relief 浮彫にする、明らかにする impulsif 衝動的の
[訳] 史家がその用いている思想を滅多に表明しないのは、その思想は大部分非情に簡単な、そして非常に明白なものでないにしても少なくとも著者にとっても読者にとっても平易なものであるからである。史家が奈翁[ナポレオン]の行為を説明するために、その偉大なる冒険家の性格描写のスケッチをなし、その野心と、先見の明あると同時に衝動的なその精神とを明らかにすれば、絶えず叙述に註釈を加えて、衝動的な性格や先見の明や野心から出る自然の結果を、一般的な格言で言い表して我々に想起せしめる必要はないのである。 |
例文279は、Célestin Bougléの
『新しい仏文解釈法』(山田原実著、島田実増訂、大学書林,1963)では、
「歴史家がその用いている諸観念を滅多に定義しないのは、それらが大部分非常に簡単なものであり、かつ非常に明白なものでないにして少なくとも著者にとっても読者にとっても身近なものだからである。歴史家がナポレオンの行為を説明するために、一個の大冒険家の肖像を描き、その野心と並べてその洞察力があると同時に衝動的でもあった精神を浮き彫りにするにあたって、彼をしてはなにもそのたびに叙述を中断して、われわれに衝動や洞察力や野心の自然の結果を一般的な箴言でもって想起させる必要はないのである。」と訳されています。
〇今日の要点
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Sinon~, du moins…「~ないとしても少なくとも…」 |
辞書で確認しておきましょう。
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(2) du moins 本質的機能は前言に限定や修正を加える点にあり en tout cas と置き換え可能な場合が多い.au moins が文の一要素のみにかかるのに対して,du moins は前の文全体にかかる.tout au moins も同じ働きをする. Il parle très bien français. Mais il n'a jamais été en France. Du moins, c'est ce qu'il dit.|彼はフランス語が上手だが,フランスには一度も行ったことがない.少なくとも彼が言うには. また〈sinon A, du moins B〉の構文で使われ「Aではないにしても,少なくともBだ」という意味を表わす.この形では du moins は前の文全体にかかるわけではないが,やはり前言を取り消し,新たな断言を導くために使われている.単に〈A ou du moins B〉となる場合もある. Dans le monde des affaires, le français est une langue sinon indispensable, du moins très utile.|ビジネスの世界では,フランス語は絶対必要な言葉というわけではないが,知っていれば非常に役に立つ. le Proche-Orient exposé à un danger de guerre ou du moins fortememt déstabilisé|戦争の危険にさらされてはいないにしても,非常に不安定な状態に置かれた中近東. 『プログレッシブ仏和辞典』 |
〇語句補足 以下は蛇足ですのでお読みにならなくても結構です。
Napoléonに定冠詞leが付いているのは、その人物像を描く歴史学者にとっての「ナポレオン像」という意味があるからと考えられます。
例
Le Napoléon de V. Hugo dans l'oeuvre d'avant l'exil
拙訳:亡命前の作品に見られるユゴーのナポレオン像
https://victorhugoressources.paris.fr/victor-hugo-et-napoleon-du-bon-usage-dun-empereur
この記事中ではLe Napoléonと人物のその人の Napoléonが使い分けられています。
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user /yze ユゼ/ [間他動] ⸨文章⸩ ➊ 〈user de qc〉〔手段,方法,言葉など〕を用いる,使う.注多く抽象的なことがらについて用いられる. user d'un droit|権利を行使する user de tous les expédients|あらゆる方策を講じる user de termes ambigus|曖昧(あいまい)な表現を用いる. 『プログレッシブ仏和辞典』 |
今日は以上です。
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