『仏文和訳法』を読む(例文103)
山田原実 著『仏文和訳法』,大学書林,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1704262
を読んでいます。
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第二章 動詞 1. 動詞の省略 次のごとき場合に動詞が省略されることがある。 (ニ)説明のC’estが省略されている場合。 ある疑問に対する答とか、ある事柄の説明文に、C’estが省略されて名詞だけの文、またはEn + 現在分詞だけの文が現れることがある。この場合は、C’estを補足して訳するがよい。 |
今回も(ニ)の続きです。
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[例文103] Comment donc réaliser ce prodige de faire tenir en l’air la voûte immense et monter les cloches jusque dans les nues? En demandant l’équilibre, non plus à la masse soutenue perpendiculairement par le sol, mais à une combinaison aérienne de forces oblique qui annule chaque poussée d’arc par une autre, diminue ainsi la sujétion à la terre et, résolvant toutes les pressions en un mutuel équilibre, dresse enfin vers le ciel la voûte allégée et triomphante. [語句] le prodige不思議なこと、奇蹟的なこと (prodigue[形容詞]「浪費する」 prodiguer「浪費する、惜しまず何々する」 la prodigalité「浪費」と混同せざるを要す) la voûte円形天井 le clocher鐘楼 les nues雲 la masse建築、台 perpendiculairement垂直に annuler廃止する、なくする la poussée圧すこと、天井の圧力 la sujétion従属、重荷 résoudre解決する、溶解させる la pression 圧迫、圧力 [訳] 巨大なる円形天井を空中に保たしめ、鐘楼を雲表に聳えさすというこの不思議を、どうして実現するか。それは、地上に垂直に支えられた建築に平衡を求めるのではなくて、各弓形の圧力を相互の釣合にしてしまって、ついに軽くされた堂々たる円形天井を空中に立てるような斜の力を空中における組合せに釣合に求めることによってである。 ※En demandant l’équilibre以下の文を、『新しい仏文解釈法』(山田原実著、島田実増訂、大学書林,1963)では以下のように訳しています。 それは、地上に垂直に支えられた建築に平衡を求めるのではなくて、各弓形の圧力を相互的になくし、従って地上に対する重荷を減じ、すべての圧力を相互の釣合いにしてしまって、ついに軽くされた堂々たる円形天井を空中に立てるような、斜の力の空中における組合せに釣合いを求めることによってである。
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[語句補足]
réaliser le prodige de inf. ~する奇蹟をなす
[例]
Ce qui a permis à Trump de réaliser le prodige de rester quatre années à la Maison Blanche
https://aoc.media/analyse/2021/01/17/le-cas-du-president-trump-ou-limpossible-empechement/
トランプにホワイトハウスに4年間留まるという奇蹟をなさしめたこと
◯今日の要点
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(ニ)説明のC’estが省略されている場合。 ある疑問に対する答とか、ある事柄の説明文に、C’estが省略されて名詞だけの文、またはEn + 現在分詞だけの文が現れることがある。この場合は、C’estを補足して訳するがよい。 |
の説明にしたがって、
En demandant l’équilibre,は
C’est en demandant l’équilibreという復元した形が考えられるということです。
◯以下は蛇足です。読まなくても結構です。
この文章は、ゴシック式建築の教会がそれ以前のロマネスク式教会より高く建てることができた理由を述べていると推測できます。
[例文103]のà la masse soutenue
perpendiculairement par le sol
「地上に垂直に支えられた建築」は、四方が石の壁でできている教会の建物をイメージするとよいかと思います。
https://note.com/ura410/n/n6583b41e4d27
のサイトに
「ロマネスク様式では半円アーチだったが,ゴシック様式では交差ヴォールトも尖頭アーチになる
ロマネスク様式の半円アーチに比べて,尖頭アーチの方がアーチ脚部の外側に向かって開こうとする力(スラスト)を小さくできる.
重い石造りのアーチは,その自重によって,下に崩れようとします.その際,アーチ脚部は外側に広がって崩れます.それは,スラストが発生するからです.また,アーチの脚部の位置はそのままに,アーチの高さ(ライズ)を高くするほど(=半円でなく,尖らせるほど),スラストは小さくできます.」とあります。
つまり「交差ボールト」の形を工夫することで、「アーチ脚部の外側に向かって開こうとする力(スラスト)を小さくでき」る。よって、この「外側に開こうとする力」に対抗するために壁を厚くする必要がない、と考えられます。
以上の説明文が[例文103]の
「各弓形の圧力を相互的になくし、従って地上に対する重荷を減じ、すべての圧力を相互の釣合いにしてしまって、ついに軽くされた堂々たる円形天井を空中に立てるような、斜の力の空中における組合せに釣合いを求めること」
を理解するうえで参考になりそうです。
●mais à une combinaison aérienne de forces oblique qui annule chaque poussée d’arc par une autre, diminue ainsi la sujétion à la terre et, résolvant toutes les pressions en un mutuel équilibre, dresse enfin vers le ciel la voûte allégée et triomphante.
の部分の構造は
mais à une combinaison aérienne de forces oblique
--qui annule chaque poussée d’arc par une autre,
--(qui) diminue ainsi la sujétion à la terre et, résolvant toutes les pressions en un mutuel équilibre,
--(qui) dresse enfin vers le ciel la voûte allégée et triomphante.
というふうに考えられます。
今日は以上です。