2024年9月29日日曜日

例文103

 

『仏文和訳法』を読む(例文103

 

山田原実 著『仏文和訳法』,大学書林,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1704262

を読んでいます。

 

 

第二章 動詞

1. 動詞の省略

次のごとき場合に動詞が省略されることがある。

(ニ)説明のC’estが省略されている場合。

ある疑問に対する答とか、ある事柄の説明文に、C’estが省略されて名詞だけの文、またはEn + 現在分詞だけの文が現れることがある。この場合は、C’estを補足して訳するがよい。

今回も(ニ)の続きです。

[例文103

Comment donc réaliser ce prodige de faire tenir en l’air la voûte immense et monter les cloches jusque dans les nues? En demandant l’équilibre, non plus à la masse soutenue perpendiculairement par le sol, mais à une combinaison aérienne de forces oblique qui annule chaque poussée d’arc par une autre, diminue ainsi la sujétion à la terre et, résolvant toutes les pressions en un mutuel équilibre, dresse enfin vers le ciel la voûte allégée et triomphante.

[語句]

le prodige不思議なこと、奇蹟的なこと prodigue[形容詞]「浪費する」 prodiguer「浪費する、惜しまず何々する」 la prodigalité「浪費」と混同せざるを要す)

la voûte円形天井 le clocher鐘楼 les nues

la masse建築、台  perpendiculairement垂直に

annuler廃止する、なくする  la poussée圧すこと、天井の圧力

la sujétion従属、重荷  résoudre解決する、溶解させる

la pression 圧迫、圧力

[訳]

巨大なる円形天井を空中に保たしめ、鐘楼を雲表に聳えさすというこの不思議を、どうして実現するか。それは、地上に垂直に支えられた建築に平衡を求めるのではなくて、各弓形の圧力を相互の釣合にしてしまって、ついに軽くされた堂々たる円形天井を空中に立てるような斜の力を空中における組合せに釣合に求めることによってである。

En demandant l’équilibre以下の文を、『新しい仏文解釈法』山田原実著、島田実増訂、大学書林,1963)では以下のように訳しています。

 それは、地上に垂直に支えられた建築に平衡を求めるのではなくて、各弓形の圧力を相互的になくし、従って地上に対する重荷を減じ、すべての圧力を相互の釣合いにしてしまって、ついに軽くされた堂々たる円形天井を空中に立てるような、斜の力の空中における組合せに釣合いを求めることによってである。

 

 

[語句補足]

réaliser le prodige de inf. ~する奇蹟をなす

[例]

Ce qui a permis à Trump de réaliser le prodige de rester quatre années à la Maison Blanche

https://aoc.media/analyse/2021/01/17/le-cas-du-president-trump-ou-limpossible-empechement/

トランプにホワイトハウスに4年間留まるという奇蹟をなさしめたこと

◯今日の要点

 

(ニ)説明のC’estが省略されている場合。

ある疑問に対する答とか、ある事柄の説明文に、C’estが省略されて名詞だけの文、またはEn + 現在分詞だけの文が現れることがある。この場合は、C’estを補足して訳するがよい。

の説明にしたがって、

En demandant l’équilibre,

C’est en demandant l’équilibreという復元した形が考えられるということです。

 

◯以下は蛇足です。読まなくても結構です。

この文章は、ゴシック式建築の教会がそれ以前のロマネスク式教会より高く建てることができた理由を述べていると推測できます。

 

[例文103]のà la masse soutenue perpendiculairement par le sol
「地上に垂直に支えられた建築」は、四方が石の壁でできている教会の建物をイメージするとよいかと思います。

 

https://note.com/ura410/n/n6583b41e4d27

のサイトに

ロマネスク様式では半円アーチだったが,ゴシック様式では交差ヴォールトも尖頭アーチになる

ロマネスク様式の半円アーチに比べて,尖頭アーチの方がアーチ脚部の外側に向かって開こうとする力(スラスト)を小さくできる.

重い石造りのアーチは,その自重によって,下に崩れようとします.その際,アーチ脚部は外側に広がって崩れます.それは,スラストが発生するからです.また,アーチの脚部の位置はそのままに,アーチの高さ(ライズ)を高くするほど(=半円でなく,尖らせるほど),スラストは小さくできます.」とあります。

つまり「交差ボールト」の形を工夫することで、「アーチ脚部の外側に向かって開こうとする力(スラスト)を小さくでき」る。よって、この「外側に開こうとする力」に対抗するために壁を厚くする必要がない、と考えられます。

以上の説明文が[例文103]の

「各弓形の圧力を相互的になくし、従って地上に対する重荷を減じ、すべての圧力を相互の釣合いにしてしまって、ついに軽くされた堂々たる円形天井を空中に立てるような、斜の力の空中における組合せに釣合いを求めること」

を理解するうえで参考になりそうです。

 

mais à une combinaison aérienne de forces oblique qui annule chaque poussée d’arc par une autre, diminue ainsi la sujétion à la terre et, résolvant toutes les pressions en un mutuel équilibre, dresse enfin vers le ciel la voûte allégée et triomphante.

の部分の構造は

mais à une combinaison aérienne de forces oblique 

--qui annule chaque poussée d’arc par une autre,

--(qui) diminue ainsi la sujétion à la terre et, résolvant toutes les pressions en un mutuel équilibre, 

--(qui) dresse enfin vers le ciel la voûte allégée et triomphante. 

というふうに考えられます

 

 

今日は以上です。

 

2024年9月27日金曜日

例文102

 

『仏文和訳法』を読む(例文102

 

山田原実 著『仏文和訳法』,大学書林,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1704262

を読んでいます。

 

第二章 動詞

1. 動詞の省略

次のごとき場合に動詞が省略されることがある。

(ハ)次のごとき言い方

da là (またはD’où)「そこから~が出て来る」

↑前回までは(ハ)のda làを見てきました。

今回からは(ニ)です。

(ニ)説明のC’estが省略されている場合。

ある疑問に対する答とか、ある事柄の説明文に、C’estが省略されて名詞だけの文、またはEn + 現在分詞だけの文が現れることがある。この場合は、C’estを補足して訳するがよい。

 

例文102

Mais si le droit de propriété se consolide ainsi, de plus en plus absolu sur la tête de l’individu, que va-t-il devenir le jour où, par la loi de la nature, cet individu mourra et qu’ainsi le droit de propriété n’aura plus de support? Moment critique en effet! Que va-t-on faire?

語句

se consolider固まる、強固になる  le support 支え、台

critique批評の、非難する、危機にある

[訳]

しかしながら、所有権がこういう風にだんだんと個人個人に絶対的なものとなって固まるとすれば、自然の法則によってその個人が死に、したがって所有権が支えをもたないようになる時は、所有権はどうなるだろうか。実際危機に遭遇することになる。人々はどうするだろうか。

  Moment critique en effet! は、『新しい仏文解釈法』(山田原実著、島田実増訂、大学書林,1963)では、「それこそ真の危機である。」と訳されています。

 

 

◯語句補足

tête 身の上,個人,人間;1人;(家畜の)1頭,1匹.

Un malheur lui est tombé sur la tête. 彼の身に不幸が降りかかった.

attirer la haine sur la tête 憎しみを買う.

prendre une chose sur sa tête ある事の責任をとる.

réunir tous les pouvoirs sur la tête de qn …に全権限を集中させる.

rente réversible sur la tête de sa sœur 妹に移譲できる年金.

tête couronnée 国王.

une centaine de têtes de bétail 約100頭の家畜.

                       『ロベール仏和大辞典』

[例文102]の文に一番近いのは、

 

réunir tous les pouvoirs sur la tête de qn …に全権限を集中させる.

rente réversible sur la tête de sa sœur 妹に移譲できる年金.

だと思います。

 「しかしながら、所有権がこういう風にだんだんと個人個人に絶対的なものとなって固まるとすれば、」→「しかしながら、所有権がこういう風にだんだんと個人個人[のもとに]に絶対的なものとなって固まるとすれば、」と考えられます。

 

◯今日の要点

 

(ニ)説明のC’estが省略されている場合。

ある疑問に対する答とか、ある事柄の説明文に、C’estが省略されて名詞だけの文、またはEn + 現在分詞だけの文が現れることがある。この場合は、C’estを補足して訳するがよい。

の説明にしたがって、

Moment critique en effet! はC’est un moment critique en effet!

と考えるのがよいでしょう。

 

今日は以上です。

例文305

  『仏文和訳法』を読む(例文 305 )   山田原実先生 著『仏文和訳法』 , 大学書林 ,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1704262 を読んでいます。   第八章 ...